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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)425号 判決

原告 株式会社 東都企業

右代表者代表取締役 田沼松枝

被告 鹿野為吉

右訴訟代理人弁護士 山本政敏

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

「被告は、原告に対し、金二二八万三四九六円及びこれに対する昭和四六年二月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外東都工事株式会社(以下訴外会社という。)は、昭和四四年七月一二日、被告からその所有の東京都江戸川区堀江町三三七九番ないし三三八四番所在の田合計四九五〇平方メートル(以下、本件土地という。)を次の約定で借り受けた(以下、本件土地使用契約という。)。

(1) 目的  がら・残土の処理場

(2) 期間  二年

(3) 使用料 金二五万円

(4) 期間満了時には、残土によって覆土し、かつ、整地したうえ、本件土地を返還する。

2  原告は、右訴外会社の残土等の処理業務を分離独立して遂行させる目的で、昭和四五年三月五日に設立された会社であり、設立と同時に被告の承諾を得て右訴外会社の本件土地使用契約上の地位を承継した。

3  ところが、昭和四五年九月五日、本件土地に通じる道路が閉鎖され、次いで、被告から昭和四五年一一月一七日付の書面で本件土地使用契約を解除する旨の意思表示がなされたため、原告は、昭和四五年九月五日以降本件土地を残土等の処理場として使用することが全くできなかった。

4  仮に前項の履行不能が被告の責に帰すべからざる事由によるものであるとしても、被告は、本件土地使用契約の締結及びその履行に当り、次のような過失があったから、原告に対し、債務不履行による賠償責任を負うものというべきである。

土地区画整理組合の設立認可の公告がなされた場合には、その施行地区内に存する土地の形質変更が制限されるに至るのであるから、当該土地の使用を目的とする契約の締結に当り、貸主には、契約期間中に右公告がなされ、その結果、当該契約に基づく土地の使用ができなくなる虞れがないか否かを十分調査してその虞がある場合は借主にその旨告知すべき義務がある。ところで、被告は、本件土地の所有者として、東京都江戸川区堀江町全域を施行地区とする土地区画整理事業の施行を目的として設立準備中であった堀江土地区画整理組合の定款及び事業計画に同意した者であり、昭和四三年一〇月三日に本件土地を含む堀江町全域を施行地区とする旨の公告がなされ、また、昭和四四年六月一五日には東京都知事に対して右組合設立の認可申請がなされたこと、右組合の設立が認可され、その公告がなされた場合には、本件土地の形質変更が制限されることを、右組合の説明や施行地区内のブロック別懇談会等を通じて知っていたのであるから、契約期間中にその認可及び公告がなされることも当然予測することができたはずである。しかるに被告は、前記義務に反し、訴外会社に対し、右認可及び公告によって本件土地の使用が期間の途中で不能になる虞れのあることを全く告知しないで、本件土地使用契約を締結した。しかも、被告は、右組合の設立認可公告がなされた後になってもその旨を原告に通知しないのみならず、原告が、右公告によって形質変更を伴う本件土地の使用が制限されると聞いて、昭和四五年八月一八日被告に対し、本件土地の所有者として原告のために本件土地の形質変更許可申請をするように要請した際には、原告の本件土地使用は右組合設立以前からのものであるから、従前どおり使用を続けても差し支えない旨述べて、原告にその旨信頼させ、本件土地に通じる道路が閉鎖された昭和四五年九月五日まで何等の対応措置をとらせることなく本件土地の使用を継続させた。

5  そして、原告は、本件土地使用契約の履行不能(予備的には、本件土地使用契約の締結及び履行における被告の不適切な取扱い)によって、次のような損害を被ったが、被告は、原告が右損害を被るに至ることを予見することができたというべきである。

(一) 従業員の給与等相当の損害金一一六万一一四〇円

原告は、昭和四五年九月から昭和四六年一月までの間、本件土地を使用して収益を上げることができないにもかかわらず、従業員に対して給与等合計金一一六万一一四〇円の支払をしなければならなくなり、これと同額の損害を被った。

(二) 自動車の諸経費相当の損害金一二万一三四八円

原告は、昭和四五年九月から昭和四六年一月までの間、本件土地を使用して作業をすることができるようになる場合に備えて用意しておいた自動車の税金及び燃料費等として、合計金一二万一三四八円を支払い、これと同額の損害を被った。

(三) 応急の代替地の使用料相当の損害金九万四七五〇円

原告は、本件土地の使用を前提として顧客と締結した残土等の処理契約の履行ができなくなったため、やむをえず他の場所を使用してその処理を行い、その費用として合計金九万四七五〇円の支払をし、これと同額の損害を被った。

(四) 代替地への移転費用相当の損害金五五万二七九六円

原告は、本件土地に代わる土地を借り受け、本件土地上の設備を右土地に運搬し、また、本件土地上の建物を解体するなどして、そのために合計金五五万二七九六円の支払をし、これと同額の損害を被った。

(五) 設備の減価償却相当の損害金三五万三四六二円

原告は、昭和四五年九月から昭和四六年一月までの間、本件土地の使用を前提として設備した機械等を使用することができないにもかかわらず、その設備につき合計金三五万三四六二円の減価償却を免れることができない結果、これと同額の損害を被った。

6  よって、原告は、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、金二二八万三四九六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四六年二月一日から支払済に至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1ないし第3項記載の事実は認める。

2  請求原因第4項記載の事実のうち、被告が本件土地の所有者として原告主張の堀江土地区画整理組合の定款及び事業計画に同意したこと、原告主張の日に施行地区の区域の公告及び組合設立の認可申請がなされたこと、以上の事実は認めるが、その余の事実は否認する。また、土地区画整理組合の設立認可の公告がなされた場合には、その施行地区内に存する土地の形質変更が制限されることは認めるが、その余の主張は争う。被告は、本件土地使用契約締結当時、組合設立の認可申請がなされたことや、その設立認可の公告によって右のような制限が加えられることは全く知らなかった。

3  請求原因第5項記載の事実は否認する。

三  抗弁

東京都知事は、昭和四五年五月二〇日、前記堀江土地区画整理組合の設立を認可し、同日その旨の公告をした。そして、同組合は、被告に対し、本件土地の埋立てを中止するように勧告するとともに、原告に対しても昭和四五年八月二一日付の文書で本件土地への塵芥等の投棄を即時中止するように通告し、また、右土地区画整理事業の施行の一環として、土地の埋立てに伴う送砂管及び排水管の設置のために、東京都第五建設事務所長の道路占用許可に基づいて、昭和四五年九月五日、本件土地及びその付近一帯の残土・がら等の捨場に通じる道路を閉鎖したので、原告は、本件土地に残土等を搬入することができなくなった。

したがって、土地の形質変更等に該当する本件土地での残土・がら等の埋立処理は、土地区画整理法第七六条第一項により、東京都知事の許可がない限り法律上禁止され、しかも、仮に原告が右許可申請をしたとしても、原告の本件土地における埋立行為自体が右組合の施行する事業と牴触するものであるから、許可される可能性は全くなかったのであり、また、原告は、同組合の事業の具体的施行によって、事実上も本件土地を使用することができなくなったのであって、本件土地の使用に対する右制限は、本件土地使用契約の残存期間中も継続するものというべきであるから、原告の右契約に基づく本件土地の使用は、被告の責に帰すべからざる事由によって不能になったものといわなければならない。このような事情から、かつまた、同組合の強い要請があったために、被告は、原告に対し、前記のとおり本件土地使用契約を解除する旨の意思表示をしたものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実のうち、被告が堀江土地区画整理組合から埋立中止の勧告を受けたことは知らない。その余の事実はすべて認めるが、法律的主張は争う。すなわち、本件のように、本件土地について土地区画整理事業が施行されるようになった場合には、被告は、本件土地使用契約上の義務履行の一態様として、堀江土地区画整理組合に対し、原告が本件土地について使用権を有することを申告するとともに、東京都知事に対し、原告のために本件土地の形質変更等の許可申請をなすべき義務を負うものというべきであり、もし、被告が右義務を履行していたならば、原告は本件土地を従前どおり使用することができたというべきであるから、原告が本件土地を使用することができなくなったことについては、右義務の履行を怠った被告に責任があるといわなければならない。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因第1項及び第2項は当事者間に争いがない。

二  さらに、請求原因第3項及び抗弁のうち、東京都知事が昭和四五年五月二〇日、本件土地を含む東京都江戸川区堀江町全域の土地区画整理事業の施行を目的とする堀江土地区画整理組合の設立を認可し、同日その旨の公告をしたこと、同組合が昭和四五年八月二一日付の文書で原告に対し、本件土地への塵芥等の投棄を即時中止するように通告したこと、同組合が、右土地区画整理事業の施行の一環として土地の埋立に伴う送砂管及び排水管の設置のために、東京都第五建設事務所長の道路占用許可に基づいて同年九月五日、本件土地及びその付近一帯のがら・残土等の捨場に通じる道路を閉鎖したので、原告は同日以降本件土地にがら・残土等を搬入することができなくなったこと、被告が原告に対し、同年一一月一七日付の書面で本件土地使用契約を解除する旨の意思表示をしたこと、以上の諸事実も当事者間に争いがない。

三1  前示のとおり、本件土地使用契約の目的は、本件土地をがら・残土の処理場として使用することであり、期間満了時には残土によって覆土することになっていたのであるが、この覆土作業は本件土地の埋立作業に他ならないから、土地区画整理法第七六条第一項の「土地区画整理事業の施行の障害のおそれのある土地の形質変更」に該当するとせねばならない。従って、同条同項により、前示設立認可の公告があった昭和四五年五月二〇日からは、本件土地の所有者である被告はもちろん、本件土地の使用権を有する原告も、同条同項の許可(以下形質変更の許可という。)がない限り、本件土地をがら・残土等の処理場として使用することは禁止されるに至ったことになる。

2  原告は、右の場合、被告に本件土地使用契約上の義務履行の一態様として、堀江土地区画整理組合に対し、原告が本件土地に使用権を有することを申告するとともに、原告のために本件土地の形質変更の許可を申請すべき義務があり、もし被告が右義務を履行していたならば、原告は本件土地を従前どおり使用することができたと主張しているが、原告が本件土地使用の制限を受けたのは本件土地の埋立が土地区画整理法第七六条第一項の土地の形質変更に該当するからであって、堀江土地区画整理組合が原告の本件土地使用権を認めるか否かとは関係がないのであるから、被告には原告が本件土地に使用権を有することを右組合に申告すべき義務があるか否かを判断する必要はないし、仮に形質変更の許可申請をしたとしても、次項に説示するとおり、許可される可能性はなかったのであるから、原告の右主張はそれ自体失当とせねばならない。(ちなみに、堀江町一帯における次項説示のようなゴミ公害を発生せしめた投棄物は、土地所有者との間に正規に使用権を設定していない業者の不法投棄によるものであったことが≪証拠省略≫によって明らかであり、被告から正規の使用権の設定をうけていた原告がこれら不法投棄業者と一律の取扱いを受けることに甘んじようとしなかった気持は理解しえないではないが、使用権があるからといって形質変更の許可が当然に与えられるものではない以上、右のように言わざるを得ないのである。)

3  そこで、形質変更の許可申請がなされていたならば、果して許可されていたか否かについて判断する。

≪証拠省略≫によると、本件土地を含む堀江町一帯は低地の湿地帯であったところ、昭和四一、二年頃からがら・残土・産業廃棄物等の捨場として使用され、これらによる煤煙、悪臭等いわゆるゴミ公害が発生していたこと、堀江土地区画整理組合は、堀江地区が右のような状況にあったため、ゴミの投棄場所として使用されることのないように、ここを良質の土により埋立てたうえ区画整理することを目的として設立されたものであること、ところが、原告が本件土地を借り受けたのは、本件土地を残土のみではなく木材の破片・コンクリート塊等建築廃材(これらのうち可燃物は焼却することとして)の投棄場所として使用するのが目的で、しかも自ら本件土地を右の目的で使用する他、他の業者にも代金を徴したうえこれを認め、結局これらの投棄物により本件土地を数メートルの高さに埋立てる作業が原告により行われていたこと、以上の事実が認められる。

右の事実によると、原告の本件土地使用を認めることは、堀江土地区画整理組合の施行する土地区画整理事業の著しい障害となることは明らかであって、この事実と後記のゴミ公害反対の住民運動が活発であった事実とを合わせ考えると、仮に形質変更の許可申請がなされたとしても、到底許可される見込のない状況であったと推認できる。ちなみに、≪証拠省略≫によって認められる、本件土地の隣地につき原告が所有者阿部仁次と連名でなした形質変更の許可申請が四囲の事情から許可される可能性がないとして取下げられた事実も考え合せられるべきであろう。

そして土地区画整理事業の性格からして、右形質変更の制限は、本件土地使用契約の残存期間中(昭和四六年七月一一日まで)継続することは明らかである。

4  従って、本件土地使用契約は、前示のように堀江土地区画整理事業の一環として送砂管及び排水管等の設置のため本件土地への通路が閉鎖され、事実上も本件土地の使用ができなくなった時点において履行不能となったと解すべきである。そして、その原因は、既に判示したように区画整理組合設立認可の公告がなされ、かつその事業が開始されたことにあるから、右は被告が右組合の組合員であるからといってこれを左右しうるものではなく、右履行不能は被告の責に帰すべからざる事由によるものというべきである。

四  そこで、進んで本件土地使用契約の締結及び履行において被告に過失があったか否かを判断することとしよう。

1  契約締結上の過失について

(一)  契約関係に立つ当事者を規律する信義誠実の原則は、契約の締結及びその履行と不可分一体の関係にたつ準備段階においても妥当すべきものであるから、当事者の一方が契約締結の準備段階において信義誠実の原則上要求される注意義務に違反し、相手方に損害を与えた場合には、いわゆる契約締結上の過失があるものとして債務不履行の責任を負うと解するのが相当である。

(二)  ところで、訴外会社が昭和四四年七月一二日被告から本件土地を借り受けたことは第一節判示のとおり当事者間に争いないところであるが、≪証拠省略≫によると、昭和四一年二月二一日に葛西地区及び堀江地区連合の土地区画整理組合設立準備会が結成されたこと、昭和四二年三月二五日に施行予定区域の測量検査を完了したこと、昭和四三年五月二日に葛西地区と堀江地区の連合準備会が解散され、堀江地区は単独で堀江土地区画整理組合設立準備会を結成したこと、同年一一月四日から同月一八日までその事業計画並びに堀江土地区画整理組合の定款の縦覧公告がなされたこと、以上の事実が認められる。そして、昭和四三年一〇月三日に堀江土地区画整理事業施行区域の公告がなされたこと及び昭和四四年六月一五日に東京都知事に対して堀江土地区画整理組合の設立認可の申請がなされたことは当事者間に争いがない。従って、本件土地使用契約は右設立認可申請の約一か月後に締結されたことになるが、被告本人尋問の結果によると、被告は堀江土地区画整理組合の設立に賛成はしていたが、その設立のために設立準備委員等として積極的に活動していたわけではなかったので、本件土地使用契約締結の段階では組合設立認可申請がなされていることなど設立計画の具体的進行状況及び設立認可の公告がなされた場合には土地の形質変更が制限されることを認識していなかった事実が認められる(証人矢作奥次郎は一部の幹部のみではなく組合員たるべき者にももれなく設立状況を知らせていた旨供述しているが、≪証拠省略≫に照すと、右供述は設立のための適式な一応の手続がなされたとの趣旨であって、設立準備段階から組合員たるべき者に設立状況をもれなく徹底させていたとの趣旨ではないと解すべきである。)。

さて、原告が訴外会社の残土等の処理業務を分離独立して遂行させる目的で昭和四五年三月五日に設立された会社であることは第一節判示のとおり争いない事実であるが、≪証拠省略≫によると、訴外会社江戸川営業所は、現に原告代表者である田沼松枝を所長、原告取締役である大塚昇を営業課長として、既に昭和四二年頃から堀江地区の土地を借り受け、がら・残土等の処理場として使用しており、昭和四三年四月三〇日には訴外阿部仁次から本件土地に隣接する土地を借り受け(昭和四五年八月更新)、さらにこれを拡張するため被告と本件土地を借り受ける交渉を始めるに至ったとの事実が認められる。そして、≪証拠省略≫によると、営業所長田沼松枝は当初から常時右賃借地で埋立作業に従事していたので土地の住民と接触する機会も多く、その間に訴外彦田新吉と埋立用の土地賃借の交渉を行った他、本件土地使用契約締結の一年程前から被告の親類の者を介して被告と交渉を開始し、一度は断わられたもののその後営業課長大塚昇と共に数回にわたり被告に賃借方を申入れ、遂に本件土地使用契約を締結するに至った事実が認められる。ところで≪証拠省略≫によると、前示ゴミ公害に対し、昭和四二年頃から住民による公害追放運動が開始され、江戸川区も埋立業者に対し、再三ゴミ投棄に対し警告していた事実が認められ、この事実と、前示の堀江土地区画整理組合設立の経緯、訴外会社が早くから堀江地区で埋立を行い住民との接触の機会のあった事実とを総合すると、本件土地使用契約締結に際し、右田沼松枝及び大塚昇は、少なくとも堀江地区に土地区画整理組合設立の計画が進行中であることは知っていたものと推認できる(証人大塚昇、原告代表者本人は右計画が進行中であることは知らなかった旨供述しているが、右に認定した事実に照らし採用できない。)。

(三)  ところで、前示のとおり、本件土地使用契約は、農業を営む被告と昭和四二年頃から堀江町で土地を借り受けたうえ、がら・残土等により埋立工事を行うことを業としていた訴外会社との間で、訴外会社からの数回にわたる熱心な土地賃借方の交渉がなされた結果締結されたものであり、双方ともその交渉時において土地区画整理組合設立計画の進行中であること及び相手方の堀江町における右立場を了解していたものである。右のような当事者間においては、土地の賃貸借契約に際し通常予測しえずかつ一当事者のみの人的な特殊な事情によるものとは言えないところの土地区画整理法第七六条第一項による制限の可能性の有無については、業務の一環として土地賃借を行っており、またその制限が業務全体の存否にかかわるという意味でヨリ利害関係の強い立場にある訴外会社の方に調査の負担が課せられているというべきである。従って、被告が本件土地使用契約締結に際し、その期間中に使用が制限される可能性のあることを故意に黙秘していたという事情がない以上(なお、本件土地使用契約締結段階では、設立認可申請はなされていたものの、認可されるか否か及び認可されるとしてもその時期が不明な状態であり、また、被告自身準備委員等として組合設立のため積極的活動をしていたわけでもないから、被告が土地区画整理法第七六条第一項による土地の形質変更の制限につき知識を有しなかったことをもって、組合員となるべき者として特に注意を欠いていたとも言えない。)、これを訴外会社に告知しなかったとしても、信義則上要求される何等かの義務に反するものではないと解するのが相当である。

2  契約履行の段階における過失(不適切な取り扱い)について

原告は、被告が堀江土地区画整理組合設立認可の公告後も、原告をして従前どおり本件土地の使用ができる旨誤信させたうえ、昭和四五年九月五日まで何等の対応措置をとらせることなく本件土地の使用を継続させ、原告に請求原因第5項記載の損害を与えたと主張しているが、原告代表者本人尋問の結果によると、原告は昭和四五年七月三日頃、江戸川区から原告の本件土地使用は形質変更の許可を得ない限り禁止されることを告知された事実が認められるので、その後被告から地主の承諾があるから何等の措置をとらなくても従前どおり使用を継続できる旨告げられたとしても、これが原因となって、原告が何等の措置をとることなく本件土地の使用を継続するに至ったと認めることはできない。従って、原告主張の損害と被告の行動とは相当因果関係を欠くことに帰し、原告主張は容認するに由ない。

五  以上説示のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、本訴請求は失当である。よって、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 倉田卓次 裁判官 岡久幸治 裁判官並木茂は転任のため署名捺印できない。裁判長裁判官 倉田卓次)

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